―序章―
夏の日差しに照らされ、自然に囲まれている銀龍高校からは、生徒たちの元気な声が今日も響いている。
「・・・・・・であるからして・・・・・・。・・・・・・斬牙!ちゃんと聞いているのかー?」
「はい。聞いてますよ〜」
古文の先生に注意されたのは、斬牙龍矢(きるが りゅうや)。両親がスウェーデン人で、親譲りで髪の毛が銀色に光り、瞳は明るい水色を帯びている。肌は透き通るような白さをしている。身長が高いせいか、何かと目立つ。体育の時間は持ち前の運動能力を発揮し、球技大会などではちょっとしたヒーローだ。5時限目の授業で満腹の所為か、眠そうに、教科書を持ちながらボーっと窓の外を見ていた彼は、青い瞳だけを先生に向けて眠そうに言った。
「む・・・・・・。ここ、今度のテストに出るところだからな! ちゃんと聞いておけ」
「テストに出る」この言葉をきいた生徒たちは、必死にノートにメモを取る。普段はあまり聞いていないのに、テスト、という言葉をきくと、態度が一変する。これはおそらくどの生徒も同じだろう。龍矢もスイッチが入ったようにシャープペンシルを持って、ノートにすばやくそれを走らせた。
「リューヤ、今日も眠そうだったわね」
放課後、龍矢の座席に手を置きながらそう言ったのは、同じクラスメートの華来安麗(からい あんり)。彼女は龍矢の幼馴染で、優しさを秘めた大きな茶色の目がチャームポイントだ。漆黒の髪は腰までに達している。安麗は長い髪を掻き分け、笑いながら龍矢に言った。
「まあ、確かにあの先生の授業は、しゃべり方ものんびりしているし、眠くなるわよね」
「お、分かるか。もう俺、あの授業は集中できねぇ」
そういうと、龍矢は机にひれ伏して、腕を精一杯伸ばして、気持ちよさそうに伸びをした。安麗はその姿を見ながらため息をつき、顔を上げると、ある人物がこちらのほうへ手を振りながら歩み寄ってくるのに気づいた。
「あれ? 倉馬。今日は昇降口の掃除当番じゃなかった?」
歩み寄ってきたのは、新希倉馬(あらき くらま)。龍矢とは対照的で黒い短髪を持ち、いつも涼しそうな顔をしている。髪も目の色も黒く、どこにでもいる高校生のような雰囲気を漂わせているが、運動能力は龍矢と並ぶほどだ。彼は頭をかきながら笑いながら言った。
「うん。そうだよ。もう終わったんだ。あまりゴミなかったし。それにしても、リューヤはいつも眠そうにしているよな。体育の授業のときは元気いっぱいなくせして」
そう言うと、龍矢の頭を軽くつついた。廊下から走ってくる足跡が聞こえてきたと同時に突然、龍矢めがけて雑巾が飛んできた。3人ともびっくりして雑巾が飛んできたほうを見てみると、そこにはちょっと背が高い女の子が腕組みをして、出入り口のところに立っていた。
「おいこらリューヤっ! あんた、今日職員室の掃除当番だろー! ただでさえ班の人が風邪引いて休んで人数少ないってのに」
と、言い放ったのは、如月咲良(きさらぎ さら)。髪は茶色に染め、後ろは短く、サイドは胸の辺りまで長い髪形をしている。また、大きな瞳はつりあがっていて、身長は安麗よりも大きく、さらに彼女は男勝りな性格な故、クラスの女子のリーダー的存在だ。
咲良の言葉を聞いて、ハッと気がついた龍矢はあわてて上体を起こし
「あ、悪ィ。今度ゴミ捨て行くから勘弁してくれよ」
と、顔の前に片手を挙げ、ごめんポーズをとりながら、咲良に向かって謝った。
「お、ゴミ捨てに行ってくれるんだね〜。なら許す。今度また忘れたら、承知しないからね」
咲良は笑いながらそう言い、龍矢たちのそばへ来た。
この4人は、実はみんな幼馴染で、もはや腐れ縁と言うべきか、学校はおろか、ずっと同じクラスなのだ。そもそも、この銀龍高校は龍学園というマンモス学園の中にある高校であり、同じキャンパス内には他に赤龍幼稚園、黄龍小学校、緑龍中学校、そして龍矢たちがいる銀龍高校、金龍大学と、幼稚園から大学まで同じキャンパスにあるのだ。無論全部同じキャンパス内にあるということは、当然それ相応の広い敷地が必要になる。しかし都会の建物だらけの場所では、このような広い敷地が確保できるわけなく、すこし外れた郊外にある山一つ分がキャンパスなのである。山の中にあるので、緑豊かで毎日小鳥のさえずりが聞こえ、風になびかれる木々の揺れる音、虫たちの鳴き声などが聞こえ、環境的にはとても良いといえる。特に桜の花が咲く季節や、紅葉の季節のときの風景は、だれもが感嘆の声をあげるほど、素晴らしいものである。この環境の良さ、カリキュラムの充実さを武器としている本校の人気はとても高かった。
その環境の中で育ってきた龍矢たちをはじめ、生徒たちはみんなのびのびと、有意義な時間を過ごしている。
「あのさ、俺、前からある計画を立てていて、みんなに聞いてほしいんだけど、みんな今日部活だろ? だから、部活終わったら、みんな高校の屋上に集合してよ。絶対みんな興味もつと思うぜ?」
部活前で気合の入った龍矢が、部活の支度を終わらせ教室を去る前に3人にそう言った。
「マジで? てかまあ、大体は予想つくけど・・・・・・了解。部活終わったら、みんな屋上ね」
安麗も咲良も倉馬もそれぞれの部活のための支度を終わらせ、それぞれ部室の近い方の出入り口について、教室を出ようとしていた。教室には龍矢たち以外に誰もいなかった。
1