「まだこないかな」
夜7時ごろには、龍矢は屋上にいた。校舎の周りが山に囲まれていて外灯が少ないせいか、星と月が煌々と光っている。星座を探そうと思えば見つけられるほど、きれいな星空が広がっていた。気温も昼間より下がって、風が吹くと心地よい気分になるほどだ。屋上から下を見渡すと、まだ部活で使った道具を片付けている生徒の姿がちょくちょく見える。
龍矢はゆっくり周りを見渡しながら屋上を一周すると、今度ははしごを上って出入り口の上に座った。龍矢は屋上から見える景色が好きだった。休み時間や部活が終わった後も、たまに一人で屋上に上り景色を堪能していた。
「またせた?!」
突然バンッとドアを開ける音にびっくりした龍矢は、危うく落っこちそうになった。
「! 咲良かよっ。びっくりしたなぁ・・・・・・」
上から見下ろすように身を乗り出して咲良に向かって言った。
「あれ? まだリューヤ以外誰も来てないんだ」
咲良は龍矢の言葉を聞かず、周りをきょろきょろと見回した。
「うん。まだ来てないよ。まあ、そのうちに来るだろ」
しばらくして安麗と倉馬が屋上に来た。4人は屋上の真ん中に円陣を組んで、地べたに座った。月明かりのおかげでみんなの顔が見える。はたからみれば、ちょっと異様な光景に写ったに違いない。
「で、話って何? 大体はわかるけど・・・・・・」
安麗が龍矢に向かってそう言った。咲良も倉馬もニヤニヤ笑ってる。
龍矢は、何笑ってんだよ。と言いたげなまなざしを2人に向ける。それから正面に向きなおし、咳払いを一つして話し始めた。
「ホラ、今度この校舎改装するために一旦取り壊されるだろ? で、前から気になってた『伝説』。あれを調べるには、今度の夏休みがチャンスだと思うんだ」
「ホラっ。私の言ったとーりじゃん」
と、立ち上がって咲良。
「む・・・・・・まぁ、予想してたけど・・・・・・考えること同じだって。それに、俺らはこういう伝説とかに目がないもんな。伝説については俺より咲良のほうが詳しく知ってそうだな・・・・・・」
「咲良は、都市伝説とかオカルト系に興味あるもんね」
安麗は口に手を当て、くすくす笑いながら言った。
「へへっ。さすがみんな私の性格わかってるじゃん。じゃあさ、いつにする?」
―『伝説』―
今から約850年前、いたずら好きの龍の兄弟がいた。その龍兄弟というのが赤龍、黄龍、緑龍、銀龍、金龍の5匹である。この5匹は霊山に住んでいて、たまに気晴らしに人里に下りてきては人々を困らせていた。中でも一番困らせたのが銀龍だったのだ。畑を荒らしたり、天候を操って作物を育てなくさせたり、もはやいたずらの度が過ぎていた。我慢ならない村人たちが、たまたま里にきていた魔術師に依頼をしたのだ。「龍を封印してくれ」と。その術師というのは、明らかに不思議な雰囲気をまとっていた。髪は長く、頬には刺青が施してあり、首には勾玉のネックレスをつけている。この魔術師の名は琉騏(りゅうき)。この琉騏によって、龍たちが葉月の17日に封印されたのだ。龍を封印した坪がこの校舎付近のどこかにあるという。
もし、この伝説が本当ならば、校舎が取り壊されたりしたらその壺も一緒に壊れてしまうのではないか。それならいっそう取り壊される前に、自分たちが壺を見つけ、伝説自体本当だったか調べてみよう、という計画だった。
「やっぱり封印された日に実行したほうがいいよね」
倉馬がその『伝説』について振り返りながら、手をあごに当てながら言った。
「うん、そうだな。なんかウワサによると、その日に何かが起きたとか・・・・・・俺が暗い校舎から光線が放たれたとか、何かが聞こえたとか」
と、龍矢が言うと咲良が、
「そもそも、この伝説自体、ほんの一握りの生徒しか知らないもんね。さぞかし何も知らない生徒が見たとしたら、怖かっただろうねぇ」
身を乗り出して笑いながら言った。
当日に必要なものや、待ち合わせ時間を決めた後、龍矢たちは解散した。このときはまだ、真実を知らず、どんどん事件に巻き込まれ大変なことになるとは、思ってもみなかった。
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