―1章―
8月17日、午後20時45分。
夜の学校は、昼間のいつもの学校の雰囲気と異なる。昼間は生徒たちの声が絶えなくてにぎやかだが、夜の学校は人の声は聞こえず、ひっそりとしている。木々が近くにあって、すこし不気味な雰囲気が漂っているし、校舎も余計に無機質なものに写り、いつもより全体的に大きく見える。生暖かい夏の風が、木々を揺らし、グランドの土をなでている。
龍矢は、周りを見回し、監視カメラの死角になるであろうポイントを見極め、その塀からよじ登り、木の枝へ飛び移って、昇降口まで一気に走った。
昇降口付近に人影がある。薄暗くてよくは見えないが、その人影は昇降口の前にある、ちょっとした階段に腰掛けていた。人影はこちらに駆けてくる龍矢をじっと見ているようだった。
「時間より少し早く来ちゃった。リューヤより早く着くなんて・・・・・・私、よほど楽しみにしてたのかしら。でも誰もいなくて、少し心細かったよ」
可笑しそうにクスクス笑いながら言った。
「安麗か。俺より早く来るとは、やるなぁ」
普段から部活で運動していて体力があるせいか、龍矢は息切れなどせず、涼しい顔で腕組みをしながらそう言った。
「うん、でも咲良が一番乗りじゃなかったのが意外。きっと準備に時間かかってるんだろうね」
その瞬間、昇降口の脇にある木から、何かが飛んできた。
―ヒュッ―
「きゃっ!」
「うあっ!」
二人は驚いて、同時に声を上げてしまった。飛んできたものに目をやると、小さな石が足元に転がっていた。次の瞬間、二人はその投げてきた正体に心当たりがあるかのように、石が飛んできた木に目をやると、
「咲〜良〜。そこにいたら、降りてきてもいいじゃない。もう、驚かすこと、好きなんだから」
さすがに暗くて、場所を特定できないせいか、安麗は、木の上のほうを見て、静かに言った。
「まあ、咲良は昔からそうだからな。今更直ることはないよ、その面白い性格」
つづいて龍矢。
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